”少女漫画”の枠を超えてくるのが、小花作品。
この記事は、すべて1冊で完結する小花美穂先生の3作品の感想をまとめました。
さくっと読めるけど、どれも深く重厚な物語。
「水の館」__”こどものおもちゃ”の作中で紗南ちゃんと直澄くんが主演した映画。
「Deep Clear」__”こどものおもちゃ”×”Honey Bitter”特別番外編。
「POCHI」__ストレス女王とノーテンキ大王…そしてその後。
水の館(初版発行 1999年)
閉ざされた館で描かれる静かな恐怖と切なさが残る物語。
ざくっとあらすじ
【”良くも悪くも”目立つことでイジメの標的にされた鈴原浩人(スズハラ ヒロト)は、中学進学を機に見た目を地味にして、目立たず日々をやり過ごす道を選んだ
そんなある日、浩人の両親が交通事故で他界。
身寄りのない浩人だが、6年前に行方不明になった実の兄の存在を思い出す。
探偵を雇い、わずかな手がかりを得た浩人は1人目的地へ向かう。
辿り着いたその先に待ち受けていたのは、想像を絶する現実だった。】
個人的感想
静かな異色作「水の館」
幽霊や薬物依存など、小花先生ならではの世界なので少女漫画にしてはやっぱりシリアス。
子どもの頃に読んだ時はちょっと怖かった。
これが”りぼん”作品じゃなかったらきっと、もっとドロドロに描かれていたと思う。
閉ざされた館で6年間過ごしてきた3人の過去、断片的な説明でも3人の背景が十分に想像できる秀逸な描写が素晴らしい。
怖いだけではなく、最初から最後まで誰もかれもが可哀想な物語で、終盤にさしかかるととても切ない展開が待っています。
そしてラストは読者の想像を膨らませるようなループともとれるオチ。
しかし、小花先生自身が「ループではない」と言っていたそうです。
ということは…
失うことと赦すこと、人の弱さと優しさ、小花先生らしい繊細で深い物語でした。
こどものおもちゃを知っているからこその現象
水の館は電波の通らない山奥で3ヵ月くらいかけて撮影されました。
こどものおもちゃ本編では、このロケ中に紗南ちゃんと直澄くんのゴシップ記事が世間に出回ったり、直澄くんのファンにより紗南ちゃんが怪我をさせられるなど様々な出来事がありました。
先にこどものおもちゃを読んでいたことで”浩人”と”真子”ではなく、”直澄くん”と”紗南ちゃん”として読んでしまった気がする。
とても切なく哀しいストーリーだったことに間違いはないですが、「こどものおもちゃの中の映画」として読み、そもそもフィクションですがフィクションの中のフィクションのような現象が私の中で起きていました。
「水の館」ウラ話
「こどものおもちゃ」ではこの「水の館」撮影シーンを読むことができます。
それ自体も撮影ウラ話となりますが、水の館にもオマケ要素としてこどものおもちゃには登場しなかった撮影ウラ話が盛り込まれています。
2倍楽しめますね。
POCHI ~MIKE編~(初版発行 2003年)
悪意のない純粋さが危うい、斗望との出会い。
「POCHI」は、”水の館”と一緒に収録されていた短編の読み切り作品です。
続編「POCHI ~MIKE編~」が2003年に発行されました。
この作品にも”MIKE編”のあとに、”水の館”と一緒に収録されていたのと同じ「POCHI」も収録されています。
ざくっとあらすじ
■POCHI
【ストレスチェックにより「ストレス女王」と呼ばれるようになった中学3年生の清香(サヤカ)。
清香は塾へ向かう途中、犬の散歩さながらに、首輪とリードを付けられた男の子の散歩をする家族を見かける。
塾が終わった後に友達に誘われて行ったお店で、さっき見かけた首輪で繋がれていた男の子・斗望(トモ)と出会う。】
■MIKE編
【山奥で祖父と自給自足生活をしている、中学1年生の三宅美紅(ミヤケ ミク)。
学校で女子からの人気が高い先輩、3年生の有賀斗望(アルガ トモ)と川村哲(カワムラ テツ)に声をかけられる。
これを機によくつるむようになり、次第に美紅は斗望に惹かれ始める。】
個人的感想
POCHI:ストレス女王とノーテンキ大王
全く逆の性質を持つ清香が斗望に惹かれるのはわかるのですが、斗望の純粋無垢すぎる心は裏表が全くないので時々怖い。
清香が「もう消えてしまいたい」と言ったとき、何度か本人の意思を確認したのちに斗望は清香を川に流してあげるのです。
しかし川に流されるうちに、苦しくなった清香が「助けて」と言ったら助ける。
斗望の行動に悪意はなく、むしろ清香の気持ちを尊重した結果の行動。
相手の言葉をそのまま受け取り行動する危うさ、まっすぐすぎる心が斗望の魅力なのでしょう。
正反対の2人でちょうどいい清香と斗望。
内容はシリアスですが、斗望の心に救われながら読みきれる作品でした。
MIKE編:ポチとミケ
短編の「POCHI」がキレイに終わったので、続編はなくてもよかったのではとも思ったのですが…
中学3年生になった斗望。
根は変わっていない、純粋すぎる危うい男子です。
ミケはそんな斗望に惹かれるのです。
そこは清香と一緒ですが、ミケは清香とは違ったタイプ。
明るくノリのいい性格が、どこか斗望のまっすぐさと響き合っている気もする。
清香の「彼のピュアさに応えていける自信が揺らいできた」というのもちょっと納得できる。
”純粋すぎる人”と関わることの難しさ、清香は真面目すぎるのでいっぱいいっぱいになってしまうかもしれませんね。
これはこれでよかったのかもしれません。
衝撃ながらも響くストーリー
斗望は首輪とリードを付けられていた過去があった。
清香は「誰もやらないなら自分がやればいい」と自分でも気づかないうちに円形脱毛症になるほどのストレスを抱えた。
ミケの両親は宗教にのめり込んでいる。
POCHIもMIKE編も、キャラクター達は裏には重たい問題を抱えている。
今なら意味もわかるし切実に受け止めつつ、色々と考えさせられる。
他の作品もそうですが、重たいテーマを扱いながら胸に響くようなストーリーを作り上げる小花先生は本当にすごい人です。
Deep Clear(初版発行 2010年)
トラウマを乗り越える。
特殊能力と女優の素晴らしきコラボ。
ざくっとあらすじ
【”オフィス・S”に入った1本の電話。
それから間もなくして音川珠里(オトカワ シュリ)のもとに現れたのは、女優・倉田紗南(クラタ サナ)とマネージャーの相模玲(サガミ レイ)。
連続ドラマで探偵を演じることになった紗南が、役作りのための取材をさせてほしいという。
プロの演技術を学ばせてもらうということで交渉は成立。
さらに、珠里は相模から極秘でもう1つの依頼を受けることとなる。
それは紗南の夫・羽山秋人(ハヤマ アキト)の浮気調査だった。】
個人的感想
懐かしさと新鮮さ
このコラボ番外編は「Honey Bitter」の連載中に20周年を迎え、軽いノリで描き上げた作品だそうですが、ファンにはたまらないご褒美のような作品。
さらに、この作品でしか読めない”直澄くん”のその後の描き下ろし収録されているのです。
Honey Bitterも読みましたが、私の小花作品の初めてが「こどものおもちゃ」です。
だからなのか、珠里目線で展開される物語なのですが、どうしても紗南ちゃんを主体に見ちゃう。
紗南ちゃん強すぎますね。
紗南ちゃんの変わらないノリと明るさ、それとギャグは読んでいて懐かしさがあります。
紗南ちゃんと羽山の他、玲くん、お母さん、ほんの少しだけだったけど剛くんと亜矢ちゃん、風花も登場します。
大満足ですよね。
Deep Clearのもうひとつの意味
珠里には人の心が読めるという特殊能力があります。
タイトルの「Deep Clear」は、紗南ちゃんの”気”のイメージであるとともに「根深いトラウマをクリアにする」という意味もある。
読んで納得です。
玲くんから極秘で”羽山の浮気調査”も受ける珠里ですが、そこには深いトラウマと葛藤する羽山の姿が描かれます。
特殊能力×女優×トラウマ
全てが上手く絡み合って展開していく物語です。
直澄くん
直澄くんは「こどものおもちゃ」に登場する、とても”深い”キャラクターです。
そんな彼のその後が少し、意外な結果とともに描かれています。
ずっと報われなかった直澄くんですが、この結果にはなんか強い納得感があるので私個人は満足でした。
〆る:全て深い
やっぱり小花先生の作品は、どれも少女漫画枠を超えた衝撃性と、王道ではみられない展開が魅力。
1度読めば小花ワールドにハマること間違いなし。
この記事に取り上げた作品はすべて「1冊」の読み切りです。
Deep Clearも、Honey Bitter×こどものおもちゃのコラボ作品ですが、両作品に触れたことがなくても楽しめる内容になっています。
・恐怖と切なさが刺さる「水の館」
・危うい純粋無垢「POCHI」
・紗南ちゃんと羽山のその後「Deep Clear」
小花作品に触れたことがある人はもちろん、まだ触れたことがない人にもおすすめです。

